Kurogane No Michi

イギリスの博物館の蒸気機関車

イギリスは鉄道発祥の地で、ヨークとシルドンに本格的な鉄道博物館がありますが、その他の博物館でも蒸気機関車が保存されています。訪問したことがある 博物館に展示されている機関車を紹介します。(2013年、2014年撮影)

ロンドン科学博物館

パッフィング・ビリー号

科学博物館 パッフィング・ビリー1 科学博物館 パッフィング・ビリー2

パッフィング・ビリー(Puffing Billy Locomotive)号は、ウィリアム・ヘドリー(William Hedley, 1779–1843)が1814年ごろに設計・製作した現存する世界最古の蒸気鉄道機関車です。ワイラム炭坑(Wylam Colliery)と近くのタイン川のあいだ約5マイル(約8km)の区間を石炭列車を牽引して歩くようなゆっくりした速度で往復しました。この機関車登場以前はレールと機関車は歯車で噛み合うようにしないと走れないと考えられていました。しかしウィリアム・ヘドリーは、一連の実験により、機関車が現在のような車輪とレールの粘着力だけで貨物を牽引して走行できることを実証しました。約50年の稼働期間のあいだに度重なる改造が行われ、現在ではどの部分が1814年当時のものかは不明です。

ロケット号

科学博物館 ロケット1 科学博物館 ロケット2

ロケット号は1829年にロバート・スティーブンソン(Robert Stephenson, 1803-1859)がリヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道(L&MR)が主催したレインヒル・トライアルに出場するために設計・製造した機関車で、最初の近代的蒸気機関車です。1829年当時リバプールとマンチェスターを結ぶ世界初の本格的な都市間旅客・貨物鉄道の開業準備がすすめられていました。しかし、それまでの蒸気機関車は信頼性・耐久性に問題があり、(L&MR)は、「蒸気機関車を使うべきか」「固定式蒸気機関によるケーブル牽引が良いか」議論があり、会社は方針決定のために公開競技会を開催しました。それがレインヒル・トライアルです。4輌の機関車が出場しましたが、ロケット号が時速47km/hを記録して唯一完走し、スティーブンソンが一流の技術者であることを実証しました。会社は蒸気機関車を使用することを決定し、ロケット号はその後の蒸気機関車の基礎となりました。使用中も継続して改良が加えられ、具体的にどの部分がいつ製造されたかはわからなくなっています。

コロンバイン号

科学博物館 コロンバイン1 科学博物館 コロンバイン2

コロンバイン(Columbine)号は、1845年から標準設計に基づいて製造された機関車の一つで、グランド・ジャンクション鉄道(Grand Junction Railway)のクルー工場で建造されました。それまで各社ごとに異なっていた機関車の設計は、この形式によって統一されていきました。1845年は鉄道発展において極めて重要な年で、1844年から1847年にかけて多数の鉄道計画が議会で承認され、イギリス全土の幹線ネットワークは1850年までにほぼ完成しました。グランド・ジャンクション鉄道は1837年に最初に開通した幹線で、バーミンガム(Curzon Street駅)からウォリントン(Warrington)まで約82kmを結んでいました。なお、博物館では、スペースの都合によりテンダーが付属していません。

ロンドン水と蒸気の博物館

ウィクスティード号

水と蒸気の博物館 トーマス・ウィクスティード1 水と蒸気の博物館 トーマス・ウィクスティード2

ロンドン・キューブリッジ(Kew Bridge)の「水と蒸気の博物館」は、かつてテムズ川から蒸気ポンプで水をくみ上げ、市内へ供給した浄水場です。ボイラー燃料の石炭は小規模な専用線で運搬され、その様子を再現したのが館内の鉄道です。運行されているトーマス・ウィクスティード号は2009年にハンスレット・エンジン社で製造された軌間610mmの軸配置Bサドルタンクの機関車です。歴史的な機関車でありませんが動態です。現役の浄水場であった当時のキューブリッジではポンプ用エンジンの廃水を利用した水車で動くトラムが地下を通り、川のはしけから石炭を運んでいて、蒸気機関車は使用されていませんでした。

ロンドン交通博物館

メトロポリタン鉄道23号

交通博物館 メトロポリタン鉄道23号1 交通博物館 メトロポリタン鉄道23号2
交通博物館 メトロポリタン鉄道23号3 交通博物館 メトロポリタン鉄道23号4

1863年に開通したメトロポリタン鉄道は、世界最初の地下鉄です。当初は蒸気機関車で運行されましたが、1905年に電化され、さらに1933年には他の地下鉄会社とともにロンドン旅客運輸公社に統合されました。この23号機は、1866年にベイヤー・ピーコック社(Beyer, Peacock & Co.)で製造された2Bタンク機関車で、軌間は1435mmですがトンネル内での使用を考慮して小型に設計され、運転台には屋根がありません。電化後も工事用機関車として1948年まで使用されました。この機関車には排気蒸気を水に戻す「復水機構」が備わっていました。これは煤煙は防げませんが、蒸気がトンネル内に充満するのを軽減する効果がありました。

リバプール博物館

LMR57ライオン号

リバプール博物館 LMR57号ライオン号1 リバプール博物館 LMR57号ライオン号2
リバプール博物館 LMR57号ライオン号3 リバプール博物館 LMR57号ライオン号4

世界初の旅客鉄道として1830年に開業したリバプール・アンド・マンチェスター鉄道(LMR)の57号機ライオン(Lion)は、1838年にリーズのキットソン社(当時 Todd, Kitson & Laird)で製造された 軸配置B1のテンダー機関車です。営業運転で使用されたのは20年ほどで、引退後は工事用機関車として使用後、1859年には売却されリバプールのマージー港湾局の専用線となりました。1874年ごろ鉄道機関車としての役割を終え、プリンス・ドックのグレーヴィング・ドックでポンプ機関の動力用据え置きボイラーで使用されました。1923年に再発見された後1928年にリバプール工学協会の会員らにより救出、LMSのクルー工場(Crewe Works)で鉄道機関車へ復元が実施されました。テンダーは既になく、ファーネス鉄道の廃車テンダー(シャープ・スチュアート社製)部品を流用して新製されたほか、煙突・煙室扉・車輪覆い、ボイラー被覆・煙管など多くの部品が作り直されました。1930年のLMR開業100周年記念行事で走行したほか、戦後は多くの映画作品で走行シーンが披露されました。のちに静態保存となりましたが、1988年まで運転可能な状態が維持され、最古の動態機関車でした。

シンクタンク・バーミンガム科学博物館

シティ・オブ・バーミンガム46235号

バーミンガム博物館 46235号1 バーミンガム博物館 46235号2
バーミンガム博物館 46235号3 バーミンガム博物館 46235号4

シティ・オブ・バーミンガム(City of Birmingham)46235号 は、1939年にLMS(London, Midland and Scottish Railway)クルー工場で製造された LMS プリンセス・コロネーション級の蒸気機関車です。軸配置2C1のパシフィック型で、当初は流線形の姿で登場しました。シリンダーを台枠内部にも配置した強力な4気筒機関車で、特急列車の牽引機です。当時ロンドンとスコットランド間を運行する鉄道各社は激しい競争を繰り広げていました。1871年のロンドン~グラスゴー間が10時間30分から1889年には7時間30分に短縮され、さらに本形式の投入により6時間30分を達成しました。戦後は整備性を重視して外装が外され、イギリス国鉄の標準緑色に塗り替えられて標準的な姿となりました。1964年に退役したのちに当博物館で保存されています。

マンチェスター科学産業博物館

ガラット式機関車2352号

マンチェスター博物館 ガラット式機関車2352号1 マンチェスター博物館 ガラット式機関車2352号2
マンチェスター博物館 ガラット式機関車2352号3 マンチェスター博物館 ガラット式機関車2352号4

ガラット式蒸気機関車は2輌を1輌につなげたような関節式の機関車で、ハーバート・ウィリアム・ガラット(Herbert William Garratt、1864-1913)が1907年に考案し特許を取得しました。この方式はベイヤー・ピーコック社の協力で実用化され、同社は1909年から1968年まで製造しました。1920年代後半までは同社が独占製造をしていましたが、その後は各国各社で製造されています。この南アフリカ鉄道(SAR)GL形2352号(製造番号6639)は1930年に製造され、1931年から1972年まで使用されました。南アフリカの鉄道の主な路線は日本と同じ軌間1067mmですが全長27.4m、重量217tと大型の機関車です。

ペンダー号

マンチェスター博物館 ペンダー号1 マンチェスター博物館 ペンダー号2

マン島鉄道の3号機関車ペンダー(Pender)は1873年にベイヤー・ピーコック社で製造(製造番号1255)された、軌間914mm、軸配置B1のタンク機関車です。当初はダグラス(Douglas)~ピール(Peel)線で使用されましたが、のちにポート・エリン(Port Erin)~ダグラス(Douglas)線で使用するため大きな水タンクが取り付けられました。蒸気機関車の内部がわかるようにカットされて展示されています。

インド北西鉄道3064号

マンチェスター博物館 インド北西鉄道3064号

1911年バルカン・ファンドリで製造(製造番号3064)された、軌間1676mm、軸配置2Cのテンダー機関車で、イギリスの植民地であったインド北西鉄道(North Western Railway, NWR)の3064号となり、中長距離の郵便快速列車で使用されました。1947年にインド・パキスタン分離独立後はパキスタン鉄道(Pakistan Railways,PR)のSPS(Scinde, Punjab & Sind)クラス3157号となりました。もともとは石炭焚きでしたが、インドとパキスタンの政治対立でインドからの石炭供給が停止されたため重油焚きに改造されています。1971年にパキスタン政府から寄贈されイギリスに戻り、展示されています。

グラスゴー リバーサイド博物館

G&SWR 5クラス 9号

リバーサイド博物館 G&SWR 5クラス 9号1

Glasgow & South Western Railway(G&SWR)9号はグラスゴーのノースブリティッシュ社スプリングバーン工場(North British Locomotive Company、Springburn)で1917年に製造された、Cタンク機関車です。同形機関車は3輌製造され急カーブで急勾配の貨物線で使用されました。1923年の鉄道会社のグループ化後、ロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道(LMS)の所属となりましたが、輌数が少ないため標準機関車とはならず、9号は1934年にレクサム近郊のレイ・メイン炭鉱に売却され、1962年まで使用されました。その後1963年、イギリス国鉄(British Railways)が保存のために購入し、G&SWRの緑色の塗装に復元され、グラスゴー交通博物館に展示されました。同博物館の閉館後は新設された現在の博物館で展示されています。

ハイランド鉄道103号「ジョーンズ・グッズ」

リバーサイド博物館 ハイランド鉄道103号

ハイランド鉄道103号は、1894年グラスゴーのシャープ・スチュワート社で製造された英国初の軸配置2Cの機関車です。動輪直径1,790mm、全長約18m、機関車重量約59t、ボイラー圧力12.3kg/cm²を備え、これは当時として破格の出力を誇りました。この機関車の愛称ジョーンズ・グッズ(Jones Goods Class)」とは、ハイランド鉄道が導入した形式呼称で、同社の機関車部長デイビット・ジョーンズ(David Jones)にちなんでいます。またグッズは貨物用を指しますが、この機関車は旅客にも使用することができ、スコットランド北部の勾配線区で力を発揮しました。現存唯一の「ジョーンズ・グッズ」として保存され、英国鉄道史における技術革新の象徴となっています。

ノース・ブリティッシュ鉄道256号「グレン・ダグラス」

リバーサイド博物館 ノース・ブリティッシュ鉄道256号「グレン・ダグラス」

ノース・ブリティッシュ鉄道256号「グレン・ダグラス」は、1895年ニールソン社で製造された軸配置2C形急行旅客用蒸気機関車です。動輪直径1,829mm、機関車重量約50t、ボイラー圧力13.4kg/cm²を備え、スコットランド東部の幹線で特急列車を牽引しました。本機が属する「グレン・クラス」とは、スコットランドの谷(グレン)の名を冠する慣習に従って命名されており、256号はローモンド湖とフィン湖の間にあるダグラス谷「グレン・ダグラス」にちなみます。こうした命名は、鉄道をスコットランドの風光と結びつける意図が込められたものでした。引退後は保存され、現存唯一の「グレン・クラス」として展示されています。

カレドニアン鉄道123号

リバーサイド博物館 123号1 リバーサイド博物館 123号2

カレドニアン鉄道123号は、1886年にグラスゴーのネイルソン社で製造された急行旅客用蒸気機関車です。軸配置2A1の「シングルドライバー」で、直径約2.13メートルの大動輪を備え、軽量編成を高速で牽引することができました。シリンダーは内側配置の2気筒で、ボイラー圧力は11.3 kg/cm²に達し、当時としては卓越した性能を誇りました。カレドニアン鉄道は1837年に設立されたスコットランドの大手私鉄で、グラスゴーとカールライルを結ぶ幹線を中心に路線を拡大し、ロンドン・ノース・ウェスタン鉄道(LNWR)と接続してスコットランドとロンドンを結ぶ主要経路を担いました。123号機はロンドン~スコットランド間の速達競争で活躍し、平均時速80キロを超える高速走行を記録したこともあります。1935年に引退した後保存機となりました。

南アフリカ鉄道15F形3007号

リバーサイド博物館 南アフリカ鉄道15F形3007号1 リバーサイド博物館 南アフリカ鉄道15F形3007号2
リバーサイド博物館 南アフリカ鉄道15F形3007号3 リバーサイド博物館 南アフリカ鉄道15F形3007号4

南アフリカ鉄道(SAR)15F形3007号は、1945年グラスゴーのノース・ブリティッシュ機関車会社ポルマディ工場で製造された軸配置2D1の「マウンテン」型蒸気機関車です。動輪直径1,524mm、機関車重量約124t、ボイラー圧力15.8kg/cm²を備え、長大編成の旅客・貨物列車を力強く牽引しました。15F形は南アフリカ鉄道の主力機として大量に導入され、本機もその一員として高原の長距離路線で活躍しました。1980年代に退役したのち現地で保存されていましたが、スコットランド製機関車としての縁から再びグラスゴーに戻され、現在はリバーサイド博物館に展示されています。輸出されたのち半世紀を経て里帰りした存在として、当地の重工業史と国際的な鉄道交流を象徴しています。